いきなりですけれど、私の顔を見てくれるかしら。私は美しい?それとも、みにくいかしら?答えていただけるわね。
《A》本当に、私をみにくいと思うんですの?
《B》あなたは、顔のいい男の人って好きかしら?
正美の知り合いに大原という看護婦がいた。美人とはいえない容貌をしていたが、やさしく有能で、どんな患者にも分け隔てなく接することのできる女性であった。そんな彼女がハンサムな入院患者、池波に恋をする。大原は、見ているだけでいい、といったが、正美はそんな大原を歯がゆく思い、池波に大原の想いを伝えてしまう。しかし、池波には恋人がおり、あんな暗くて地味な看護婦なんて絶対嫌だよ、と腹を抱えて笑い出した。そして、その一部始終を大原は見られてしまう。
次の日、医局から劇薬が盗まれる。嫌な予感がした正美が池波の病室へ駆けつけると、そこには息絶えた池波と、盗まれた劇薬のビンを手にした大原の姿があった。大原は、正美を見てニヤリと笑うと、あなたのおかげで池波を手に入れることが決心できた、といってビンの中身を一気に飲み干した。
大原は優秀な看護婦だったので、自分の行動がどういう結果を生むかわかっていたはずだったが、それでも、やらずにはいられなかったのだろう。
そんなに彼を愛していたのか、傷ついたことが辛かったのか……。恋愛ってそういうものなんでしょうか。
正美の知り合いに浦野という、若く美しい美容整形外科医がいた。彼女に一目惚れをし、一途に思い続けていた武内という青年は、なんとか浦野に近づきたい一心で、その方法を考えていたのだが……
《1》あなたなら、どうします?
《2》診察室に通された武内は、思わず「浦野先生のように、美しくなりたいんです!」といってしまった。いきなりこんなことをいってしまい、変な男に思われたかも、と不安になった武内だったが、浦野はその言葉に対し微笑みながら「それが、あなたの望みなら」と返した。
そのときの彼の気持ちが、想像できます?どんな思いだったのでしょうね。
《3》秘書役として採用された武内は仕事ぶりを認められ大切にされるようになった。本来であれば、このままうまくやっていけるはずだったのだが、ある理由によりそれは台無しになってしまった。
それが何か、知りたいでしょう?
《4》ある日、武内が資料を整理していると、透明な液体の入った薬ビンを見つけた。なぜ資料室にそんなものがあるのか奇妙に思ったが、忙しいせいもあり、その日の夕方にはそのことを忘れてしまっていた。
こんな武内さんを、一言でいい表すなら、どんな人だと思います。
《5》あなたは、こういう人をどう思うかしら?
《6》ある日の夕方、診察が終わってオフィスに戻った浦野先生が突然倒れた。武内は救急車を呼ぼうとしたが、浦野先生はそれを止め、引き出しの中の注射器を取ってくるよう命じる。自分で注射をした浦野先生が、このことを内緒にするよう武内にいうと、武内は喜んで了承し、彼女に告白をした。浦野先生が「嬉しいわ、武内君。困ったことがあったら、力になってね」というと、武内は元気よくうなづくのであった。
愛する人に頼られるなんて、これ以上ない喜びでしょう。先生のためなら、命も捨てられるとさえ思い詰めても、何の不思議もないですわ。その気持ち、わかるでしょう?
《7》武内は浦野先生に、姉の経営する産婦人科病院を手伝って欲しい、と頼まれ、そこへ赴いた。武内が資料の整理をし、本棚を磨くための雑巾を捜していると、台所から何かを煮込むような音が…。台所をのぞきこむと、コンロの上には大きなずんどう鍋がかかり、煮えたぎっていた。しかし、その臭いはまるで生ゴミを混ぜたラードを温めたような感じだったのだ。
想像できまして?
入院した武内の前に注射器をもった浦野が現れ、自分のように美しくなりたいという気持ちは変わっていないか聞いてきた。武内が力強くうなずくと、浦野は持っていた注射を武内に打った。すると武内は体中に猛烈なかゆみをおぼえ、全身をかきむしると、ついには脱皮をしてしまい、美しい男性へと変貌した。
武内は、自分が人間以外のものになってしまったことを悟ったが、愛しい浦野の仲間になれたことを幸せに思うのであった。(次の人の話へ)
武内は入院したが、即手術ということにはならず、病室で安静にするばかりだった。そして一ヶ月が過ぎ、ようやく手術の日が訪れると、武内は麻酔をかけられ、手術室ではなく、その奥にある地下へのスロープへと運ばれた。武内を乗せた手術台がスロープを滑り降り、その先の闇に消えると、大型の猛獣のようなうなり声と、固い物が砕ける音が……。
やがて長いチューブが出てくると、その先から薄緑色の液体がこぼれ、浦野先生はそれを嬉しそうに顔中に塗りたくった。
闇の中にいたものの正体はわからないが、とにかく浦野先生は武内をそれに食べさせて、美貌の秘密である薄緑色の液体を手に入れたのだという。
話し終えた正美は、どうしてこんな話を知っているのかは言えないが、自分が美しい肌を保っているのはこの化粧品のおかげなのだと、小ビンを取り出した。その中には、正美の話にあった、薄緑色の液体が入っていたのだった。(次の人の話へ)
オフィスに戻った浦野先生は、しまい忘れた薬ビンを見て顔をひきつらせた。武内はあわててそれをしまったが、後日にはファイルをしまい忘れ、また浦野先生を怒らせてしまう。武内はもう二度と忘れ物をしないよう心に誓ったが、今度は台ふきんをしまい忘れ、浦野先生の怒りは頂点に達した。彼女はペンスタンドから万年筆を取り上げると、何度言ってもわからないなら体で覚えろ、と武内の腕に突き立てたのだ。だが、それ以来武内は浦野先生に叱られるのが楽しみになってしまう。そして浦野先生も彼を叱ることでストレスを発散しているようであり、奇妙な関係が二人の間に生まれた。
しかし、武内の怪我が増えると、彼の家族が不審に思い始め、浦野先生の元に行くことを禁じてしまう。我慢できなくなった武内は家を抜け出し、浦野医院に向かった。再会した二人はお互いの胸の内を明かし合い……。
武内の家族が浦野医院に駆けつけると、そこには体を引き裂かれ内臓を引きずり出された武内と、その腸を握りしめ、健やかな顔で眠る浦野先生の姿があった。
理解しにくいですけれど、二人とも幸せだったんですわね。こういう愛もあるのかしら。
ある日、武内がいつものように浦野医院を訪れると、浦野先生から「今日は二人きりよ。このチャンスを待っていたの……。さあ……目をつぶって……」と思いがけない言葉が発せられた。のぼせ上がった武内が目を閉じると、その瞬間、激しい痛みが走った。浦野先生は武内の眉を切り落とそうとしてきたのだ。恐ろしくなった武内は逃げようとしたが、それよりも早く浦野先生の鋭い刃が彼を襲った。
二ヶ月後、通報を受けた警察が浦野医院に踏み込むと、ガラスビンを頬ずりしている浦野先生の姿があった。ビンの中には、パーツを集めてつなぎ合わせた、彼女の理想の顔が入っていたという……。(次の人の話へ)
浦野先生は武内を医院のあるビルの地下に連れていき、この先にある資料室の監視をして欲しいと頼んだ。武内が扉の奥を覗き込むと、背中を突き飛ばされ中に閉じ込められてしまう。部屋の中には十以上の人間の体が天井からつり下げられていた。浦野先生は、整形のモデルとなる人間をコレクションしていたのだ。冷凍室になっていたその部屋に閉じ込められた武内はやがて凍死してしまう。数日経って、浦野先生が武内の死体をつるそうとすると、武内の脚が半開きの扉にあたり、浦野先生も冷凍室に閉じ込められてしまったのだった。(次の人の話へ)
悪臭を嗅ぎ気分が悪くなった武内の肩を誰かが叩いた。振り向くと浦野先生の姉が立っており、鍋の中を見せてあげる、と武内を鍋の前に連れていった。「これは私たちの子供を育てるためのスープなの」姉の視線をたどってみると、台所の向こうに、円筒形のガラス容器の中に入った小さな人間が見えた。それは、産婦人科医の姉と整形外科医の浦野が材料を持ち寄って作り上げた自慢の息子なのだという。自分達とこの子を引き離す気だな、と姉は武内に煮えたぎるスープを浴びせようとしたが、武内が姉を突き飛ばし、姉はスープを頭からかぶってしまう。武内が椅子を振り上げガラス容器に叩きつけると、床に投げ出された生き物は、みるみるうちに溶けていった。そして彼はそれを見届けると、台所から去り、姿を消した。
姉の遺体が発見されたとき、鍋の中身が分析されたのだが、警察は発表を控えた。
それがなぜか、わかりますか?
鍋を見てしまった武内は、浦野姉妹によって真っ暗な部屋に押し込められてしまった。あの鍋の中身は秘密の美容液で、その製法を知られるわけにはいかないのだという。浦野先生が「美容液の材料と一緒に、死になさい」と冷たく言い放つと、床が開き、武内はその下の大穴に落ちていった。穴の中は生暖かい液体で満たされ、産婦人科医である姉が手に入れた、特別な『材料』がいくつも浮いていた……。
武内が息絶える最期の瞬間まで正気を保っていたら、と思うと、自分には耐えられないという正美。
あなたも、そう思うでしょう?