この村の私有地に出没するヒナキちゃんという女の子の話が語られる。
こういう話を聞くと、確かめたくなる方かしら?
良夫が行く予定の中学に、田崎と秋山という三年生がいた。二人がヒナキちゃんの噂を聞きつけ、私有地に通っていると、ヒナキちゃんの姿を見つける。
田崎君は、秋山君を小突いた。
ヒナキちゃんは田崎君の頬をつねると「近いうちに、つねられるよりももっと痛いことが起こるわよ……」といった。そして次の日の放課後、ヒナキちゃんの予言通り、田崎君は階段から落ちて怪我をしてしまう。嫌な予感がした秋山君が一人で私有地へ向かうと、ヒナキちゃんは秋山君の髪を引っ張り、「今度は、これよりもっと辛いことが起こるわよ」といった。そしてまた次の日、秋山君が一人でヒナキちゃんに会いに行ったことが元で、二人はケンカをしてしまう。
ヒナキちゃんの不思議な力に惹かれた秋山君が再び私有地へ行くと、ヒナキちゃんは秋山君の鼻をつまみ、「近々、もっと苦しいことが起こるわ……」といった。
やがて夏になり、海で泳いでいた秋山君は波に飲み込まれ溺れてしまう。秋山君が助けを求めると、一緒に海へ来ていた田崎君が近づいてきて、こういった。「俺、ヒナキちゃんにいわれたんだよ。鼻を指でつままれて。近々、これよりもっと苦しいことが……見れるって」田崎君もあの後ヒナキちゃんに会いに行っていたのだ。
秋山君は、その瞬間に死を予感したの。
田崎君はヒナキちゃんに話しかけたが無視される。次の日、いつもは秋山君と帰るはずなのに、田崎君は一人で帰ってしまった。さらに次の日、田崎君は学校を休んだ。心配になった秋山君がヒナキちゃんのところへ行くと、田崎君は虚ろな目をして、ヒナキちゃんと花輪を作っていた。
ヒナキちゃんは秋山君に気づくと、少し睨むような表情で、秋山君をじいっと見た。
《A》ヒナキちゃんの目付きは、獲物を捕らえた蛇のようだったんだもの。
《B》ヒナキちゃんの姿が消え、秋山君がふと田崎君の足元を見ると、そこには小さなお墓が。近くに寄って見ると、小さな手が出てきて何かを探るような手つきをしてから消えてしまった。そのお墓に、餌を与えないでください、と書いているのを見た秋山君は田崎君を思いっきり揺さぶったが、田崎君は花輪を作り続けるだけ。秋山君はその場を逃げ出した。
(★を通っていない場合)次の日、秋山君が私有地に行ってヒナキちゃんを問い詰めると、彼女はお墓を指さし「田崎君ならこの中よ。今ごろは子供と仲良くしているわ」といった。そしてお墓の中から小さな貝を掘り出すと、秋山君にそれを渡し「もう帰って」と。
家に帰った秋山君が、ヒナキちゃんから渡された貝を机の上に乗せ、寝ようとすると、「助けて!」という小さな子供と田崎君の声が聞こえてきた。
……ひどく苦しんでいるような声色だったのよ。
(★を通っている場合)次の日、秋山君が私有地に行ってヒナキちゃんを問い詰めると、彼女はお墓を指さし「この中には、子供が埋まっているの。海で溺れて死んだ男の子」といった。そして秋山君をお墓のそばまで連れていき、「でも、お墓の中の子、なかなか成仏しなかったのよ。道連れが欲しいっていって」というと、お墓の中から田崎君の手が出てきた。
ヒナキちゃんは子供を成仏させるために田崎君を犠牲にしたが、死体が邪魔なので持って帰ってくれないかと頼んできた。
でも、それで本当にいいの……?
新しい学校に馴染めずいつも一人だった転校生の中沢君には、大きな友達と小さな友達がいた。大きな友達とは新しく買ってもらったランドセルのことで、小さな友達とは前の学校で仲が良かった友達からもらった動物の形のキーホルダーのことだった。ある日のこと、中沢君が学校から帰っていると、キーホルダーのチェーンが外れ、私有地に入り込んでしまう。中沢君がキーホルダーを捜していると、どこからか「昨日はあの子、今日もあの子、明日もあの子と遊びましょ……明後日はあの子と遊べない。あの子がいなくなるからね」という歌詞のわらべ歌が聞こえてきた。歌っていたのはヒナキちゃんで、二人の目が合うと、彼女はニヤリと笑い、小さな猫の首を撫で始めた。
ちなみにあんたたち、猫は好き?
ヒナキちゃんは、あやとりを猫の首にかけ、ぐるぐると巻き始めた。中沢君がどうしてそんなことをするのか聞くと、この猫は首輪をしていないので、こうしてないと逃げてしまうからだ、といった。
次の日中沢君が私有地に行くと、昨日の猫は死んでいた。ヒナキちゃんは中沢君に、あやとりの糸がグルグルに巻かれたキーホルダーを見せ「明日もここにくるといいわ」といってまたわらべ歌を歌い始めた。
中沢君は、明日おいでっていわれたけど、『明日』ってヒナキちゃんと会ってから何日目だと思う?
家に帰ると、玄関前でキーホルダーを持ったヒナキちゃんが待ち受けており、「あなた、小さな友達に連絡を取った?」と呟くと、走ってどこかに行ってしまった。中沢君が急いでキーホルダーをくれた友達に電話をすると「僕、明日転校するんだ……」といわれ、いなくなるとはこういうことか、とホッとした。
しかしその後、転校するといった友達は事故にあって死んでしまう。友達が亡くなった日、キーホルダーに巻かれたあやとりの糸がふいに取れ、それ以来そのキーホルダーは時々しゃべるようになったそうだ。(次の人の話へ)
猫をあやすヒナキちゃんを見て、中沢君は怖くなり逃げ出そうとした。するとヒナキちゃんは、中沢君を呼び止めキーホルダーを見せると、またわらべ歌を歌い始めた。結局中沢君はキーホルダーを取り返すことができないまま逃げてしまい、それからヒナキちゃんを見かけることがなくなってしまった。
それからしばらくして、中沢君の頭の中に、キーホルダーみたいに首を吊ろうよ、という自殺を促すような声が聞こえるようになった。耐えきれなくなった中沢君がキーホルダーをくれた友達に電話をしてみると、電話番号はすでに使われなくなっており、彼には誰にも相談する人がいなくなってしまった。中沢君が涙声で、頭に響く声に「ねえ、ヒナキちゃん、どうして僕を殺したがるの?」と聞くと、「僕はヒナキちゃんじゃないよ」という返事が。声の主はヒナキちゃんではなく、事故にあって死んでしまっていた、キーホルダーをくれた友達だったのだ。
翌日、中沢君はキーホルダーのように首を吊った姿で発見された。
話を終えた和子が、ヒナキちゃんのいる私有地を探してはいけない、と念を押す。