正美の同僚の看護婦は、知り合いに頼まれて個人的にある少女の介護を頼まれた。少女の両親は幼い頃に亡くなり、元医師の兄と二人っきりで空気のいい田舎に住んでいるという。給料もかなりのものだったらしい。
《1》彼女は、お給料につられたのだと思います?
《2》正美の同僚は家に着いてみて驚いた。そこはまるで外国の映画に出てくるような立派な洋館で、介護する少女、更紗と、その兄の恭介は、その広い屋敷に二人っきりで住んでいるのだという。彼女はそのことが奇妙に思えたが、あえて詳しく聞いたりはしなかった。
誰にだって、事情はありますもの。あなたも、そうするでしょう?
《3》わざわざ敵を作るような真似をするのは、愚の骨頂ですわ。わかるでしょう?
《4》看護婦は二階の一室をもらい更紗に挨拶に行ったが、「出てって」といわれてしまう。やがて食事の時間になったが、スープの中にはうじ虫が混ざっていたり、メインディッシュの皿の上にネズミの死骸がのっていたりした。だが、恭介と更紗の兄妹は彼女の皿を見ても、顔色一つ変えないでいる。
どういうことなんでしょう?彼らには、このネズミが見えていないとでも?
《5》看護婦が部屋に戻りベッドカバーをめくると、そこには猫の生首が置いてあり、彼女は気を失った。暗闇の中、誰かの声を聞き振り返ると、無気味な老婆の顔が浮かび、「カエレ……ここから出ていけ……今すぐに……!」とつぶやいている。やがて顔は遠くへ消えていき、気がつくと彼女はベッドに寝ていた。そばでは恭介と更紗がのぞき込んでいる。恭介は心配そうにしていたが、猫の生首が置いてあったことをいうのはためらわれた。
どうしてだか、わかりますか?
《6》恭介と更紗は部屋を出ていったが、ドアが閉まる瞬間、更紗が振り向き、鋭い視線を投げてきた。更紗は看護婦のことを憎んでいるに違いなかった。
でも、なぜ?
《7》看護婦は、騒いでいるのは自分だけなので気のせいかもしれない、とグッとこらえた。
あなたも、こういうときは、じっと我慢してしまう方ですか?
《8》彼女のような生き方をしていると、そのうち無理が来るのですわ。どんな無理だか、知りたいでしょう?
《9》頼まれたから来たのに、と腹が立ってきた看護婦は、文句をいってやろうと部屋を出た。
ドアを開けて、正面に見えるのは、誰の部屋だったかしら?
《10》看護婦はまず隣のドアを見てみたが、真っ暗で何の物音もしない。寝てしまったのでしょうか?
《11》恭介の部屋から話し声のようなものが聞こえてきた。更紗はそこにいるのだろう。しかし、更紗に文句をいえば恭介にも知られてしまう。
あなただったら、それでも今すぐ、いいに行きますか?
《12》部屋に戻った看護婦は眠ってしまった。★しかし突然誰かに足をつかまれる。ベッドの下からは異形の『なにか』が見つめていた。驚いた彼女は部屋から逃げ出し、階段の踊り場までたどり着いたが、そこで何ものかに足をつかまれ落ちてしまう。「さあ、これでわかったでしょ。ここから出てって」いつの間にか更紗が立っており、看護婦にここから出ていくように忠告した。看護婦が呆然としていると、後ろから恭介に羽交い締めにされ、注射を打たれてしまう。次に気がついたとき、彼女はまぶしいライトの下に縛りつけられていた。恭介は手術着を着込み、看護婦に対して手術を始めようとしたが……
あなたなら、どうします?
《13》そんな緊急事態に、自分に危害を加えようという相手に対して、本気ですの?
次の日、看護婦が目を覚ますと、笑顔の更紗が待ち受けていた。昨日の出来事は更紗のイタズラで、自分達と暮らすのなら好きな人じゃなきゃ嫌だったので、彼女のことを試していたらしい。看護婦は更紗に合格とみなされ、それからは仲良く暮らすようになった。
そんなある日、看護婦は更紗にお茶をすすめられ、何の疑いもなくそれを飲むと、苦い塊がこみ上げてきた。お茶には毒が入っていたのだ。吐き気と頭痛に襲われる看護婦を見て更紗はいった。「ふふっ、これで、いつまでもいてくれるね。私の病気が治っても、帰らないよね」(次の人の話へ)
夜になっても寝付けなくなった看護婦は、食堂での出来事は更紗の仕業だと思い更紗の部屋を訪ねた。しかしそこで、子犬の首から生き血をすする更紗の姿を見てしまう。
(※1を通っていない場合)吸血鬼……、そう思った彼女は真夜中になるまで待ち、眠っている更紗の胸を火かき棒で貫いた。だが、更紗は胸を突かれても灰にならない。背後からは恭介が現れ、看護婦を責めた。自分の間違いに気付いた看護婦が更紗にしがみついて泣き出すと、更紗の目がカッと開き、看護婦の首にかみついた。更紗は心臓を貫かれても死ななかったのだから、吸血鬼でもないが、人間でもないのだろう。そんな可愛らしい魔物がいるなんて信じられない、という正美だった。(次の人の話へ)
(※1を通っている場合)驚いた看護婦はとっさに悲鳴をあげてしまい、更紗に気づかれ、首をかまれてしまう。それ以来、看護婦の姿を見た人はいないという。(次の人の話へ)
看護婦が更紗の部屋のドアを開けると、そこには床も天井もない真っ暗な空間で、その真ん中に更紗は浮いていた。更紗は、ここは夢の中で、屋敷も恭介も、すべて夢の中の登場人物なのだといった。そして、看護婦も、この屋敷に入った瞬間から更紗の中の一部なのだと。(次の人の話へ)
看護婦がノックと同時にドアを開けると、やはりそこには更紗がいた。看護婦が怒鳴ろうとすると、突然恭介に押さえつけられる。更紗はぶるぶると震えていたが、恭介に促されると、看護婦の方へ近づきその首筋へと噛みついた。
「兄さん、私……どうして、兄さんたちと違う生き物なのかしら」(次の人の話へ)
看護婦が大声で助けを求めると、果物ナイフを持った更紗が現れ、恭介を刺した。そして看護婦が縛られていたロープを切り、逃げるように促すと、その顔にドス黒いシミが広がっていく。夜明けの光が部屋に差し込むと、更紗は倒れ、その体はしなびていき、たるんだ皮膚に覆われたグロテスクな生き物へと変化していった。(次の人の話へ)
(※2を通っていない場合)看護婦が屋敷を出る前に、一つだけ見つけた物があった。何だと思います?
看護婦が、どういうつもりなのか尋ねると、恭介は、姉の復活のためだ、と答えた。更紗が現れ恭介を止めようとすると、薬瓶が落ちて炎を発し、みるみるうちに広がりはじめる。更紗が看護婦のロープを解き逃げるように促したが、屋敷は火に包まれ、どこへ逃げればいいかもわからない。しかしそのとき、立ち込める煙が女性の形になり、逃げ道をつくってくれた。
後にわかったことだが、あの屋敷では女主人が一年前から姿を消していたらしい。恭介は亡くなった姉を甦らせるために、あのようなことをしたのだろう。そして火事になった屋敷から看護婦を助けてくれたのは、亡くなった姉だったのではないか。(次の人の話へ)
看護婦が、どういうつもりなのか尋ねると、更紗が現れ恭介を止めようとした。恭介は病気の更紗のために、楽園を作ろうとしていたのだという。更紗が壁に張り巡らされていたカーテンを引っ張ると、そこには人魚やケンタウルスといった奇妙な生物たちが、何体もたたずんでいた。
更紗が恭介にとびかかると、二人はもつれ合い、更紗は恭介の持っていたメスが刺さり死んでしまった。恭介は、更紗の体をうつ伏せにすると、巨大な白い羽を取り出し、更紗の背中に縫い付けた。
「これでやっと、完成するよ。おとぎの国の中にいる、天使の更紗」(次の人の話へ)