みんなは、死にたいって思ったことある?
由香里の先輩で、高額なアルバイトばかりを狙う井上史郎の体験談が語られる。
井上先輩が自殺の名所として有名な青木ヶ原樹海へ遺体捜索のアルバイトに行ったときのこと、彼は捜索中に白いコートを着た人を目撃する。自殺しようとして入ってきた人かもしれない、とその人を探して森の奥へ進んでいったが、いつの間にか見失ってしまい、日が暮れてきたので井上達は野宿をすることになった。
交代で見張りをたてて仮眠をとることにしたが、最初の見張り役は井上がかってでた。
なんでかなぁ……?
……どう、怖かった?
この先輩にまつわる話は、これだけじゃないんだなぁ……。
今度は井上先輩が樹海のバイトに行くより前に体験した話が語られる。
井上先輩の元に、旅先であった二階堂という人物から電話があり、先輩は飲みに誘われた。そこで彼は二階堂から豪華な料理や高い酒を奢られ、ダイビングに誘われる。ところが、週末になって二階堂の車で目的地に行くと、そこは自殺の名所として有名な滝だった。二階堂のいっていた『潜る』というのは『滝壺に潜って遺体を引き上げる』ということだったのだ。井上先輩が水に入ると、水流の渦巻いている所では、人の形をしたようなものが、ぐるぐると回っており……。
それが引き上げるべき遺体だと気付いた時の、先輩の気持ちがわかる?
恐ろしくなった井上先輩は水面から顔を出して帰らせてくれと頼んだが、二階堂は「駄目だね。お前には、もう前金を渡してあるんだから」といってきた。二階堂がご馳走してくれた料理や酒は、すべて遺体捜索のアルバイト代だったのだ。井上はしかたなく水中に潜り、これは仕事なんだ、と自分で自分を説得して遺体を引き上げることにした。
この話は井上の所属するスポーツクラブの夏合宿で語られた話なのだが、話が終わると、聞いていた人はみな口々に二階堂のようなやつは死ぬべきだ、と騒ぎになったそうだ。
……私が先輩から聞いた話は、これで終わりなんだけどさぁ。
滝壺の遺体捜索バイトをやりたかった由香里は、井上先輩に二階堂の連絡先を教えてもらおうとしたが、先輩は知らないと答えた。諦めかけた由香里だったが、旅先で知り合った三田村という人から突然電話があり、飲みに誘われる。由香里が、どこかで聞いたような展開だなと思って飲みに行くと、案の定、三田村は豪華な料理や高い酒を奢って、潜りに誘ってくるのであった。井上先輩からすでに話を聞いていた由香里が「ところで二階堂さんはお元気ですか?」と聞くと、三田村は口ごもり、由香里の質問を無視してマニュアル通りの台詞を続けるのだった。
後日、由香里は二階堂が行方不明になっていることを、テレビか何かの番組で知る。(次の人の話へ)
恐ろしくなった井上先輩が二階堂に帰らせてくれと頼むと、二階堂は「死体は無視してかまわない。それよりも、滝壺の底に黄色いバッグが落ちているんだ。それを取ってきてくれないか」と耳打ちしてきた。井上先輩が再び水の中へ潜ると、二階堂のいっていた黄色いバッグを見つける。バッグを渡すと二階堂は涙を流しながら何度も頬ずりをした。
そんなに大事なバッグだなんて、いったい何が入ってたのかしら?
今年は、私も参加しようかなぁ。
もし、自分が自殺するとしたら、どんな場所で死ぬと思う?
《A》無意識のうちに、ひどく追い詰められているようだね。心当たりはないの?
《B》私はきっと、自殺する前に誰かに殺されそうな気がする。私を殺す権利がもらえる整理券。欲しい?
《C》どうしたの?欲しいっていったじゃん。
由香里が高校一年の夏休みに友達と海水浴に行ったときのこと、人が一杯でイモ洗い状態の海にうんざりした由香里は、遊泳禁止区域で誰かが泳いでいるのを見て、ある誘惑にかられた。例えていうのなら、赤信号なのに車が全然走っていない時の状態のような……。
赤信号でも車が走ってなかったら渡っちゃう?それとも、信号が変わるまできちんと待つ?
悪魔のささやきにのった由香里は遊泳禁止区域で泳いでしまい、そこで白い手に足を引っ張られ海の中へ引き込まれそうになる。たまたま由香里の様子を見ていた井上先輩のおかげで助かったが、その後あの海からは女の子の死体が見つかったという。(次の人の話へ)
★を通っている場合、いつ殺してくれるの?という由香里の話が追加される。
都心のオフィス街にある植え込みの中から若い女性の死体が見つかる事件があった。彼女はものすごい美人だったが、虫歯の治療で口許のラインが崩れたことを苦にしてビルの屋上から飛び下りたのだ。発見された時には死後数ヶ月過ぎており、由香里が発見するまで、誰一人として彼女の死体に気付かなかったらしい。彼女の死体を見守ってた植え込みのツツジは、あれから赤い花を咲かせるようになったという。(次の人の話へ)