この話をすると何か恐ろしいことが起こりそうな気がする、という由香里。
それでも聞きたい?
由香里は以前、山間の里の外れにある大きな家のベビーシッターに行ったことがあった。
そこで、三才の子供の面倒を見ることになったのだが…
名前?さぁ、何だっていいんじゃん?もう忘れちゃったよ。悪魔の、あっちゃん。妖怪の『よっちゃん』でもいいよ。どっちにする?
由香里の高校時代の男友達が、卒業と同時に一人暮らしを始めるため、ある格安のアパートを見つけ引っ越した。彼の部屋は一階にあったが、アパートが道路よりも高いところに建っていたため、玄関までは六段の短い階段を上がらないといけなかった。引っ越し当日の夜、彼は階段を一段上ってくる音と幼い子供の「ひとーつ」という声に目が覚める。次の日、また階段を上る足音と「ふたーつ」という子供の声を聞く。この足音と子供の声は毎晩欠かさず続き、六日目には「むーっつ、もうすぐだよ」という声がした。そして七日目の夜の翌日、彼は布団の中で眠るように死んでいたという。(次の人の話へ)
由香里は子供にかかりっきりになり、一日のほとんどを子供部屋で過ごさねばならなかったが、屋敷の人達はやたらと由香里にかまいだし、どんどんと馴れ馴れしくなっていった。うっとうしくなった由香里は家族の誘いを断るようになる。そんなある日の夜、由香里が寝ていると、屋敷中の人間が部屋に集まり、由香里に薬と称するドロッとした液体を飲ませていった。気絶した由香里は翌朝荷物をまとめて屋敷を出たが、具合が悪くなり病院へ行くと、由香里の胃の中には犬か猫のものと思われる脳味噌が詰まっていたのだった。
アルバイトを紹介してくれた友達が見舞いにきて話をすると、あの家族にとって個人主義者は病気なのだという。その友達も例の家で脳味噌を飲まされたクチで、あのアルバイトは不幸の手紙のように、ぐるぐると巡って行ってるらしい。(次の人の話へ)
『よっちゃん』の屋敷には財産を狙う魔女が長男の嫁として入り込んでいたのだ。屋敷では、家を守ってきた幽霊や妖怪が姿を消し、代わりにまがまがしい妖気を放つ化け物達が徘徊するようになった。やがて契約期間が終わり数年後、由香里の元に、よっちゃんの五才の節句の招待状が送られてきた。再び由香里が屋敷を訪れると、そこはもう人間の住むところではなかった。醜悪極まりない魔物達の中央に、例の魔女とよっちゃんが座っているのを見て、由香里はこの家がつぶれることを確信した。この母子は呪われている。
この、よっちゃんと魔女が、呪われたわけ。何だと思う?
かっちゃんのそばには、いつも生き物の屍骸が転がっていた。かっちゃんは三才にして、命を奪う罪を、快楽として感じていたのだ。ある日由香里は、かっちゃんがインコを絞め殺すのを見てしまう。
かっちゃんは、その屍骸をどうしたと思う?
しばらくすると、今度は家の周辺を縄張りにしている野良猫が死んだ。その屍骸には不自然な点があったという。
それは、どんな点だったと思う?
かっちゃんはインコの屍骸を持って、裏山へ入っていった。小さな原っぱにたどりつくと、そこには小さな木片が並んでいた。かっちゃんは穴を掘り屍骸を埋めると丁寧に土をかけ、最後に小さな木片を差した。その原っぱは、かっちゃんが作った墓地だったらしい。
由香里はそんなかっちゃんを見て、まるで堕天使のようだ、と魅せられた。
やがて由香里のバイト契約が切れ、五年後、かっちゃんと再会することになる。
さぞや可愛らしい少年に成長しただろうと期待した由香里だったが、屋敷で出迎えたのは、日に焼けた坊主頭のどこにでもいそうな田舎の子供に成長したかっちゃんだった。堕天使のイメージが崩れた由香里は、その場でUターンしたという。(次の人の話へ)
蒸し暑い夜、由香里が寝苦しくしていると、部屋のすぐ外から低く唸る獣の声が聞こえてきた。野良猫を殺したやつかも、と思った由香里は追っ払うため、ネズミ花火に火を付けて外へ投げ込んだ。獣たちを追っ払うことに成功し、安心して眠った由香里だったが、かっちゃんの母に起こされてしまう。かっちゃんの母は顔に包帯を捲いており、今日で契約終了させてもらいたい、と由香里にバイト代が入った封筒を手渡した。由香里は追い払われるように屋敷を後にする。屋敷の人達もみんなあちこちに包帯を捲き、敵を見るような目で由香里を見送った。
あの屋敷の人間はみんな毛深くて、夜になると目が光り、猫舌だったという。彼らこそ、獣だったのかも……。
そんなこと、あるわけないか?
それからもかっちゃんは色々な動物を残酷な方法で殺し続け、由香里がこの屋敷を出ようと考えていた矢先、台所で婆さんの飼い犬を殺すかっちゃんとかっちゃんの母親を目撃してしまう。由香里は母親に押さえつけられ、かっちゃんに犬の心臓を頬に擦り付けられて気を失った。
気がつくと由香里は屋敷の涸れ井戸の中にいた。「お前は明日、この屋敷の守り神になる」というかっちゃんの母の声が聞こえ、由香里は井戸の底へ置き去りにされる。しばらくすると井戸の上からトンボの羽や何かの内臓やらが、時間をおいて、次々と投げ込まれてきた。どうやら由香里は人柱にされるらしい。しかし、屋敷の家長である婆さんに助けられ、無事に逃げだし家に戻ることができた。(次の人の話へ)※隠しシナリオへ
[人柱の儀式]の話で終わらせ、3話目に前田和子を選択すると[隠しシナリオ・前田和子]が、前田良夫を選択すると[隠しシナリオ・前田良夫]が出現する。